内航キーマンインタビュー⑧フェリーの2工場建造体制が整う 内海造船・原耕作社長【海事プレス-8/16】

因島工場でも大型フェリーの建造体制を整えた

■「海事プレスONLINE」2022年8月16日(火)に、内海造船についてのインタビューが掲載されています。

 内航のカーフェリーとRORO船建造のメーンプレーヤーである内海造船。設計対応力には定評が高く、国土交通省の内航船省エネルギー格付け制度で同社建造船は16隻が最高評価「5つ星」を獲得している。これまで中小型フェリーを建造していた瀬戸田工場に加え、今年はフェリーでは過去最大船型となる1万4000総トン型をフェリーの建造実績が無かった因島工場で初めて建造し、フェリーとRORO船を2工場で建造する体制が整った。原耕作社長(写真)は「『聞く力』で、顧客の要望にできるだけ答えていく」と語る。原社長と鶴岡信三取締役に、事業方針や課題を聞いた。

■新造と修繕の相乗効果

 ― 複数の船種を製品とするプロダクトミックス戦略が特徴だ。
 「安定して仕事を確保して会社を存続させるため、様々な船をバランスよく受注していくモデルを採用している。その中で、軸になっているのが内航のフェリーとRORO船だ。フェリーは、昭和30年代の旅客船時代から長年手掛けており、いまは2000~5000トン級と8000~1万総トン超が主力。長年継続的にお取引が続いているフェリー会社があり、懇意の顧客の代替需要をベースにしているほか、かつて取引があった顧客との取引の再開も相次いでいる」
 ― 鉄道・運輸機構の共有船建造実績が昨年累計100隻を突破した。
 「顧客の話しを聞き、一から要望に応えて実績を積み重ねた結果と思う」
 ― 新規船への対応力や設計力には定評が高い。
 「もともとフェリーとRORO船は、船主の嗜好や航路、岸壁の条件、旅客定員数などに応じて全て仕様が異なり、顧客の要望に応じた個別設計が求められる。その中で評価をいただいているのは、長年の経験やデータの蓄積によるところも大きいと思う」
 ― 強さはどこにあるのか。
 「さまざまな船に対応できること。また新造船と修繕船を並行して手掛けている相乗効果もある。瀬戸田工場で内航船を中心に年間80隻程度の修繕工事を受け入れており、フェリーをはじめさまざまな工事に対応している。自社で建造した船の一部が修繕工事で戻ってくるので、さまざまなフィードバックが得られるし、修繕のお取引を通じて船舶に関するさまざまな情報や知見も得られる」
 ― 今後の製品戦略は。
 「製品を決め打ちして提案するのではなく、顧客がどのような船を希望しているかを聞くことから始めるのが当社のスタイル。『聞く力』で、顧客の要望にできるだけ答えていく」

■因島でも大型フェリー建造

 ― 今年3月に、因島工場で宮崎カーフェリー向けの1万4200総トン型“たかちほ”が竣工した。苦労は。
 「大型化もさることながら、今回は因島工場でフェリーを建造したことの意義が大きかった。もともと当社は瀬戸田工場がフェリー建造に慣れており、因島工場はバルカーやRORO船などの大型船を建造してきた。一方、長距離フェリーなど船型の大型化が進んでいるため、建造設備の大きい因島工場の活用が、大きなテーマだった」
 「今回は瀬戸田工場の担当者が因島工場の現場を指導するなどして事前に備えた。心配もしたが、船主のご協力もあり契約納期より二か月早く竣工させることができた。フェリーはデッキ数が多いためパネル点数が多く、建造時にはこれらの置き場所が必要。大型船は部材点数も多い。その点で、因島の工場の広いスペースが生きた」
 ― 商船三井フェリー向けに初のLNG燃料フェリーも受注した。今後の脱炭素への対応は。
 「新燃料の専任担当者を充てて研究開発を行うような体制は取れていないが、案件ベースで、商談の中で顧客の要望を聞き、知識と情報を集めて対応している。一方では、従来型燃料に対するニーズも引き続き強く、こうした案件にも対応しなければいけない」
 「LNGやバッテリーは既に技術が確立している。アンモニアや水素などの新燃料はインフラ整備とエンジン開発による部分も大きいので、世の中に動向に合わせて行く」

■クレーン代替で生産性向上

 ― 生産性向上への取り組みは。
 「当社の場合、一品生産になるため量産効果が出せず、効率化は簡単ではない。こうした中でも、設計では、タイムリーに不具合のない図面を出すため、図面進捗率などを管理者が確認できるシステムの構築を進めている。現場では、手待ちの時間を減らしたり、過剰な配員をなくすよう、仕事と日程に応じた適正配員を徹底している。定着するのに苦労したが、根気強く続けて徐々に成果が挙がりつつある」
 「生産性アップに向けて、因島工場は船台用クレーン3基の代替更新を進めている。昨年、吊り能力200トンのクレーン2基を導入した。ちょうど大型フェリーの建造に間に合い、タイミングが良かった。年内には100トン吊り1基も設置する。ブロックが大型化でき搭載個数を減らせるほか、従来は主機関の一括搭載のために毎回海上クレーンを手配していたが、自前のクレーンで搭載できるようになった」
 「このほか、2~3隻シリーズ船の場合は、仮に1番船の設計の不具合が現場で表面化したら、後続船に生かせるよう素早く設計にフィードバックするといった取り組みや、全くの同型船がないにしても将来の類似の船の建造に備えて建造時の知見や情報、トラブル事例などをデータベース化し、次に生かせるよう残す、といった地道な取り組みも進めている」。
 ― 近年は官公庁船にも力を入れている。
 「ご相談をいただき、当社が手掛けられる案件にはチャレンジしようとしている。国内で対応できる造船所が減っているとも聞いている。いずれも入札になるが、発注側もしっかりとした品質と性能の船を建造したいとの考えがあると思うので、コストと技術で応えていきたい」
 ― 経営課題は。
 「人材採用が最大のテーマ。生産現場では、ベトナムの実習生に来てもらっているが、各職場のキーパーソンは本工として確保していく必要がある。地元の生徒数が減っているため募集先を広げている。また、スタッフと技術者は、船を造ってみたいという夢を持った人にいかに来てもらうか。実際に工場に来てもらい、進水式などを見学し、造船業を理解してもらってから採用することでミスマッチをなくしたい。造船業の就職人気は必ずしも高くないが、その中でも当社に応募してくれる学生には、自分が設計した船や建造に携わった船に両親や友人に乗ってもらいたい、との思いを持ってくる人がいる。当社の建造船は国内を走るフェリーが多いため、実際に船に乗ってもらえる機会がある点はメリットだ。また、いろいろな船をやってみたいから内海造船が良い、という技術者も多く、プロダクトミックス戦略が従業員のやりがいにもつながっているといえる。船造りに思い入れのある若い人に来てもらい、当社で力を発揮してもらいたい」
 「もう1つの課題は、新技術対応について客先あるいは調達先などのパートナーとどのように協力し、進めていくかがある。当社の新技術に対応するリソースは限られており、技術開発は優先順位をつけ効率的に焦点を絞って進める方針だ。具体的には案件ごとに『どのような技術が必要か』『市場動向を考慮しどの案件に注力すべきか』を検討し、客先の要望および情報に基づき認証機関及び調達先などの周囲のパートナーとの連携を図りながら、自社の力も磨いていきたい」
 ― どういう会社にしたいか。
 「業界の中で、独特の存在感がある会社。いろいろな船を手掛ける中で、造船に関することなら『困ったらまずは内海造船に相談してみよう』と思ってもらえる会社になりたい。そういうポジションで生き残っていく」
(聞き手:対馬和弘)