「実質的な競争力を高める」内海造船・寺尾新社長、LNG燃料船や防衛省船に挑戦

■「海事プレスONLINE」2024年7月22日(月)に、内海造船㈱についての記事が掲載されています。

 

内海造船の新社長に就任した寺尾弘志氏はこのほど本紙インタビューに応じ、現状と事業方針を語った。前期は純利益23億円で最高益を記録したが「好業績は円安が主要因」とし、今後は「実質的な競争力・収益力」を高める必要があるとの考えを示した。設計負荷の大きい多様な船舶への対応に定評がある同社だが、今後もフェリーやRORO船を軸にしたプロダクトミックス体制を維持する。現在、因島工場では初のLNG燃料フェリーの建造、瀬戸田工場では防衛省向け輸送船シリーズの建造と、2工場がそれぞれ新規プロジェクトに取り組んでおり、ここで新たな知見を確立して、次につなげる方針だ。

■現実的な水準の収益確保

 — 新社長としての抱負を。
 「当社はフェリーやRORO船を中心に、日本の船主と良好な関係を結んでいる。この関係を継続できるよう、今後もお客様に喜ばれる船を造っていくことが第一だ。もう一点は労働力の確保。造船業は日本に残していくべき産業であり、その一助となるよう、当社も若者がずっと働きたいと思える会社、社員が働きがいを感じられる会社にしたいと思う」
 「当社は今年で設立80周年を迎えるが、過去80年間にわたり、その時代ごとに必要とされる船を納めてきた。その観点では非常に力のある企業だと思っており、この力を継続したい。若手も力をつけてきており、会社としてのポテンシャルもある。継続すべきことは継続しながら、エネルギーシフトのような時代の変化にも対応できるよう改善を重ねる努力を続けたい」
 — 前期は業績が好調だった。今後の見通しは。
 「前期はおかげさまで過去最高益を記録したが、為替が円安に振れたことが主な要因だった。実質的な競争力・収益力がどこまで高まったかというと、為替に隠れて見えておらず、本質的な力をつけるためにやるべきことはたくさんあるとの認識だ。前期レベルの利益を出し続けようとすると判断を誤りかねないので、まずは現実的な水準の収益確保をしっかり進める。事業継続が最も重要なので、短期的な利益だけでなく先々のことも考えて、経営したい」
 「今後も黒字継続が目標だが、必ずしも楽観はできない。例えば、為替の先行きも不透明だ。当社はフェリーなど円建て契約主体だが、連続建造船などは外貨建てだ。為替予約もいまは判断が難しく、状況を見ながら検討している」

■3年分の仕事確保

 — 手持ち工事の状況と操業は。
 「瀬戸田工場と因島工場ともに3年分の仕事量が埋まりつつある。主機関の納期が長くなっているため、線表も長く伸びている。ただ、フェリーやRORO船などの商談にも対応できるよう、部分的には船台を空けている。操業は瀬戸田と因島ともに定常的な操業を維持している状況だ」
 — 2工場の新造船の現状は
 「プロダクトミックスが基本。受注残はフェリー、RORO船、バルカー、コンテナ船と防衛省向け輸送船だ。因島では現在、LNG燃料フェリーを建造中で、今年末の引き渡しに向けて艤装工事を行っている。瀬戸田では防衛省向けの輸送船となる中型級船舶(LSV)と小型級船(LCU)の建造が始まった。このほかに4万重量トン型バルカー『40GC』の連続建造が因島でスタートした。40GCは因島での建造が主体だが、瀬戸田でも輸送船やフェリーの合間に建造する予定で、1番船を今年秋ごろから建造する。コンテナ船の連続建造は残り2隻で、最終船が現在、船台工事中で、これでいったん終了となる」
 — 以前は瀬戸田と因島で建造船種が明確に分かれていたが、いまはミックスしている。
 「2工場でそれぞれ得意な分野はあるが、フェリーを因島でも建造できる形になるなど、柔軟性が増している」
 — 防衛省向けのシリーズ船や、初のLNG燃料船など、難しいプロジェクトが続く。
 「防衛省向け輸送船は、陸上自衛隊や防衛装備庁としっかり連携して取り組んでいる。自衛隊特有の手法なども勉強しながら、ご協力をいただき、これまで順調に進んでいる。LNG燃料フェリーは初の建造だが、エンジニアリングを一部アウトソースし、船主からもご指導をいただいて勉強しながら進めている。ここまで工程通りに進んでおり、これからガステストや試運転など大きな山場を迎えるので、課題を1つずつクリアしていきたい」

■業務最適化などに取り組む

 — 今後の営業方針は。
 「まず、フェリーやRORO船で国内船主のご要望に応えられるよう対応するのがベースとなる。フェリーとRORO船は設計負荷が高いため、連続建造船を組み合わせていく考えで、これまではコンテナ船だったが、いまはバルカーとなり、市況に応じて船種を選定していく。それに加えて、防衛省向け輸送船のような他のプロジェクトにも案件ごとに対応していきたい」
 「受注はあまり先物までは固めない方針。40GCは需要が強いが、RORO船やフェリーの案件が期近な納期で出てくる可能性もあるため全て40GCで埋めることはない。為替リスクもあるので、概ね3年分の手持ち工事確保をめどに、流動性も持たせながら受注を進める」
 — 今後の設備投資は。
 「クレーン代替などの大型投資が一段落し、当面は老朽更新が主体になる。また、防衛省向けプロジェクトもきっかけに、瀬戸田で監督宿舎の建設にも着手した。もともと不足気味だったので4階建ての船員・監督用の宿舎を建築中で、9〜10月に完成する」
 — 岸壁能力の強化は。
 「LNG燃料船になると岸壁期間が長くなるため、因島は並列で係船して対応する。今後の検討課題だ」
 — DXへの取り組みは。
 「DXについては残念ながら当社は遅れていると認識している。まずはデジタル化そのもではなく、現在の業務が本当に有効な業務になっているか、人員配置は適切かという点も含めて、仕事の進め方の見直しから着手したい」
 — 新燃料などへの取り組みは。
 「現在のLNG燃料フェリーをしっかりと建造し、次につなげられるようにノウハウや知見を確立し、見直しなども行う。LNGの次の燃料については、現時点ではまだどの燃料が主流になるか見通しが立たないこともあり、勉強を進めておき、具体的な案件が見えてきてから本格的に取り組むことになろう」

■若い力に期待

 — 人手不足が造船業の課題だ。
 「当社も採用は苦労しており、特に高卒社員の新規採用と定着が課題になっている。少子高齢化が急速に進み、地元高校の生徒数も激減しているため、地元採用だけで人材を賄うのは現実的に不可能な時代になった。以前は九州からの採用も多かったが、いまは九州で半導体産業などが人材の囲い込みを強めている。現在の操業を今後も維持する方針のため、現場での外国人活用を増やしていく必要がある」
 「大卒社員も一時より採用が減ったが、設計や現場スタッフをはじめ、各部署で社員が定着している。例えば設計は、半分以上が20代〜30代になった。こうした若手が力をつけて重要な戦力になっている。皆が頑張っており、仕事を任せられる範囲も増えてきた。設計も生産部門も、さらに経験を積むことで当社を支える人材になってくれると期待している」
 「造船業は日本になくてはならない産業であり、いまは技術の転換期でやりがいもある。国や海事クラスターも人材確保や魅力の発信に取り組んでいただいているが、当社としても社員にやりがいを感じてもらうにはどうしたら良いかといったことをこれまで以上に考えていきたい。島の雇用と経済を支える企業としても頑張りたい」
(聞き手:対馬和弘)