新燃料や自律船への改造に備え 三和ドック、寺西社長に聞く【海事プレス-12/20】

■「海事プレスONLINE」2021年12月20日(月)に、三和ドックについての記事が掲載されています。

 

 脱炭素化に向けた燃料転換や、自律運航化など、就航船に新たなシステムやプラントを搭載する改造(レトロフィット)工事が将来見込まれている。バラスト水処理装置などのレトロフィット実績が豊富な三和ドックは現在、自律運航システムのレトロフィット工事を実施中だ。寺西秀太社長は「将来に備えて知見やノウハウを得る」とねらいを語る。一連のプロジェクトを通じて、「修繕ヤードには今後プロジェクトマネジメントの能力が必要と改めて痛感した」とし、将来を見据えた人材育成に本腰を入れる考えだ。

 ― 日本財団が実施する無人運航船実証プログラム「MEGURI2040」で、国内30社で構成される「DFFASプロジェクト」に参加した。
 「プロジェクトの実証船である内航コンテナ船の船主・船舶管理会社イコーズから、お声がけをいただいた。当社は実証船に自律運航システムを搭載するうえでの詳細設計と施工を担当する。今月7日から当社で実証船へのシステム搭載工事が始まり、1月初旬に完了する予定だ。その後、来年2月中旬にかけて、岸壁と洋上での調整が予定されており、そこまでを担当する。また、無人運航の実証運航が終わった後の搭載機器の撤去作業も当社で実施する」。
 ― 具体的な搭載工事の内容は。
 「自律運航のシステムはコンテナ化されており、これを本船に一括搭載する。8~9割は電気関連工事で、推進制御システムの改造、カメラやレーダーなどの航海システム、機関プラントの状態監視システムの追加などを行う」 
 ― エンジニアリングも担当した。
 「基本計画は日本シップヤード(NSY)が行い、当社は詳細設計が担当だ。これまで手掛けてきたスクラバーやバラスト水処理装置のレトロフィットと比べて設計範囲が限定的であるため、設計量はそう多くはなかったが、小さな船体にどのように搭載するかという点や、撤去を前提に搭載する点が特殊だった。小型船に対する当社の知見を活かせる部分も多く、これまで培った3Dスキャナを用いたリバースエンジニアリング技術も活かせた」
 ― DFFAS参加のねらいは。
 「自動運航技術は、人手不足が顕著な内航海運で将来必須になるだろう。新造船を自動運航船に切り替える方向が大勢になると思うが、自動運航が一般化してシステムがパッケージ化されれば、就航船へのレトロフィット工事の需要が出てくる可能性もある。そのときに備えて、修繕ヤードとして今できる最低限の準備をしておこうというのが今回参加したねらいだ。日本初の工事なら是非やりたいという思いだった」
 「一方、実際の施工を通じて改めて痛感したのは、こうしたプロジェクトマネジメント的な工事の経験が不足しているということだ。修繕ヤードは、やってきた船に対して現場で判断して自社のコントロール下で短期間に工事を遂行するのは得意だが、多数の関係者が関わるプロジェクトで、段階を踏んで調整しながら進める工事は、経験とノウハウが十分ではない。大変勉強になった」。
 ― 今後はさまざまなレトロフィットの需要も見込まれている
 「自律運航のレトロフィットよりも、当面は環境対応船の工事が大きいとみる。アンモニアや水素などの将来燃料はいずれもエネルギー密度が小さいため、燃費性能が変わらなければ相対的に燃料タンクが大型化し、貨物スペースを圧迫することになる。よって省エネの追及は不可欠であり、今後は船舶全体のエネルギーマネジメントも重要になってくるだろう。従来の船は、発電機は発電機、ボイラはボイラと個別の仕事だったが、これらを結びつけて全体の中で多数の関係者と調整しながら進める要素が工事で強くなる。やはり、プロジェクトマネジメント力が問われるようになり、こうした力を付ける必要性を改めて感じた」
 ― どのように対応するか。
 「人材育成の在り方が重要になる。現場の中で鍛える手法から、より広い世界で勉強する形への見直しが必要。海運が2050年にカーボンニュートラル化を目指すとなると、2035年頃から新燃料に切り替わる。そのときに現場の最前線で活躍するのは、今の20~30歳代の若手だ。彼らに、従来の修繕ヤードの延長線上にはない発想で活躍できる力をつけてもらわないといけない。今回のプロジェクトで、こうした思いを強くした」
 「当社は幸い、2016年の大型ドック建設時に積極的に採用を拡大したことで人材が増えた。今後は15~20年先を見据えた人材育成を進めたい。自社単独では学べることも限られるので、プロジェクトベースで他社との連携を深めていく他、最前線にいる企業への出向の受け入れなどもお願いしている。例えば2~3人ずつ3年間出向して学んでくれば、15年間で相当な戦力がそろう。従来の当社の人材育成の基本的な考え方は踏襲しつつ、新たな時代への準備を加速させていく」
(聞き手:対馬和弘)